囲い庭の家

住宅建築 2022年2月号 掲載



 

この家は、子育て中の四人家族の家である。

敷地は、海からほど近い住宅地の角地にあり、日照にも恵まれた環境であったが、賃貸アパートと向かい合うことから、プライバシーを保つのが難しい側面を持っていた。また、ご主人が出張で留守にすることも多く、セキュリティにも配慮する必要があった。

 

そこで、建物で中庭を囲むコートハウス型のプランを計画し、プライバシーとセキュリティを確保しつつ、中庭と室内とを一体化させ、自宅に居ながらにして、美しい森の中で暮らしているような、豊かな環境をつくりたいと考えた。

平面プランは「の」の字を書くように、玄関から近い部分にフォーマルな和室、趣味のピアノ室を設け、奥に進むにつれ、プライバシーレベルの高い寝室などの個室群を順に並べた。また、LDKをはじめとする、すべての部屋から、中庭を楽しむことができるように、部屋を配置している。

中庭の窓から差し込む木漏れ日は、一日の太陽の動きに合わせて、日の当たる部屋が移り変わり、時間ごとに違った表情を見せ、室内を美しく演出してくれる。

ピアノが趣味のご主人のためのピアノ室、茶道を習う奥様のための和室、娘さんたちの子供部屋には、大好きな「うんてい」を設けた。家族それぞれのお気に入りの場所からは、いつも家族の気配が感じられ、中庭の木々や草花が、柔らかく家族をつなぐ家となった。

 

引渡し後、ご主人から、「これで、旅行に行く必要がなくなりました。」と嬉しい言葉をいただいた。

 

コロナ禍により、自宅で過ごす時間が急速に増え、否応なく生活スタイルにも大きな変化がもたらされた。この家を見ていると、家というシェルターに守られながら、自然と接することのできるコートハウスは、現代の住宅のあり方として、一つの解決策になりえると感じている。

 

日本人は、森の民と表現されることがあるが、家と自然との関係性を、もう一度、見直す機会が訪れているのかもしれない。

 

(吉武聖)